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5月の野山

5月の野山は新緑に満ち溢れ空は明るく晴れ上がったとても気持ちの良い日でした。天気も

良く山も綺麗なので散歩でもと思い出かけてみました。

久しぶりだったので少し遠出をし山奥を歩いてみました。ある山奥の林道を歩いていると

それまで人に出会ったこともなかった所で、初めて一人の老人に出会い私は「こんにちは」と挨拶をしました。

すると老人は「ああ、こんにちは」と挨拶を返してくれました。

その言葉のあとに「あんたあんまり見かけん顔じゃが、どちらへ行きなはるん?」と聞かれ

私はここに来た経緯を話しました。老人は「ほうかな」と言いながら何かをリュックから

取り出し、私に手渡してくれました。

なんとそれは青々としたワサビでした。聞けば老人は朝暗いうちにここを通りもっと山奥に

自生している天然山葵を取って来たらしい。

そんな貴重なワサビを頂いたせいか私も久々にいい気持ちになりました。

少しの間、老人のワサビの群生の話などを聞いていると、この群生の中には一際際立つ一株、

二株が必ずある、素人は一見して羽振りの良いこちらを取って行く。これは種の絶滅を防ぐ

目的で自然界が作った掟だと言う。この一株、二株を老人は「もどき」と言った。

また、世の中全ての物にこの「もどき」が存在するのだといい、昔の影武者などもすべて

この自然界の営みから人間が得た知識だと言っていました。

ああ、いい話だなあ…。この話が本当なのかネットで調べてみる?

「ヤメテクレ」そんな野暮ったい事はやめて下さい。学問上諸説あるものは沢山あります。この一説もこの諸説の一つで良いのです。私の言いたいことは、今時こんな話が聞けたこと、またこの話をする時のあの老人の自信に満ちた顔、私は久しぶりに父親の顔を思い出し、

なんとも言えない心の底から温かくなってくるのを感じました。

お名前も聞けなかったご老人ありがとうございました。



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